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シカゴのサケ釣り


 長い冬の間、強風と積雪に生気を奪われた樹木と融雪剤の岩塩にコーティングされた道路や建物で灰色の世界と化したシカゴ地域も、5月になると全ての樹木と芝生が作り出す若々しい緑の世界に一変する。一年を通して最も感動的な季節である。
 この頃、シカゴが面しているミシガン湖でのサケ釣りのシーズンが始まる。

 シカゴ川がミシガン湖に流れ出る河口の北側に湖に突き出た海軍埠頭(Navy Pier)に設置されている灯台付近と、岸から4マイルほど沖合にあるシカゴ市の水道取水口の周辺が、サケの格好の釣り場となっている。

 この時期の獲物は、温まり始めた水面を避け水深10メートルほどの湖底近くに潜っているチヌークサーモン(Chinook Salmon)だ。このサケは大型のものはキングサーモン(King Salmon)と呼ばれている。
 最もポピュラーな釣り方は、大型のプレジャーボートの最後尾に設置した何本かのリール竿から糸を伸ばし、魚群探知機で測った深さにシンカー(錘)を調節しながら引いていく方法である。ルアー(疑似餌)にサケが掛かると一瞬竿が大きくしなる。それがサケとの闘いの始まりとなる。糸が緩むとサケに掛かった鈎が外れ逃げられてしまうため、絶えず糸のテンションを張りながら徐々にリールを巻いていくのがこの釣りの醍醐味ともいえる。

 釣りの最大の楽しみは釣りそのものにもあるが、釣ったサケを食することにあるのではないかと思う。
 自分で釣ったサケを短時間でさばき、それをバター焼きで食べる美味しさは格別である。普段魚屋から買うサケとは全く別の食材である。取り立てのサケは至福の味である。私は焼いて食べるだけではなく、身をほぐしてチャーハンの具として食べたことがあるが、今まで食べたなかで最高のチャーハンであった。新鮮なサケの味はヒグマに独占させておくべきではない、と断言しておきたい。

 シカゴではかつてPCB(ポリ塩化ビフェニール)のミシガン湖を汚染していた時期があり、このこともあってシカゴの地元の人達はサケを採っても頭と腹わたは捨ててしまう。石狩鍋などはあり得ないことになっている。もっとも、汚染がなくてもアメリカ人はフィレ(身)だけを食するのが当たり前と思っているが。
  PCB汚染ももはや過去の話であり、今ではシカゴの日本人の中にはシカゴ産のサケを石狩鍋にして食べている人もいるかもしれない。

 春期の新鮮なチヌークサーモンは極上の味であることを伝えておきたい。