046_露の景色4
心の実相 (4) 三世間


 十界・十界互具・十如是に則して、心の状態、変化の姿、心の普遍的背景と因果律について述べてきたが、次に三世間(さんせけん)について説明することとしたい。

 心はその器である我が身の当体が人それぞれに異なっていることにより、心の働き方にも違いが生じ個性が生じる背景ともなっている。また、人それぞれに生活する社会や置かれている環境が異なることによっても、心の姿に違いが生じてくる。
 これらの心に影響を与える心を取り巻く特異性・差別を仏法では三世間として明らかにしている。ちなみに世間とは元々人間等の住する世界を指すが、ここでは差別の意義として使われている。

 三世間は、五陰世間(ごおんせけん)、衆生世間(しゅじょうせけん)、国土世間(こくどせけん)の三つから構成される。以下、それぞれの説明をする。

 ① 五陰世間
   心が住する場所であり器でもある我が身は、精神活動とそれをなし得る身体とが融合した、仏法で言う色心不二(しきしんふに)の当体であるが、その身体の機能を使って外界からの情報等を感受し、それを心で想念することにより認識にまで至る一連の精神活動を行っている。これを五陰(陰とは集合の意義)とよぶ五過程に分けて説明している。すなわち、(1) 色、(2) 受、(3) 想、(4) 行、(5) 識、の五つの過程である。

   (1) 色(しき) とは、身体・肉体を言う。心が存在する
     物質的な場所が我が身の肉体である。

   (2) 受(じゅ)とは、六識(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・
     触覚・意識)という我が身(色)に備わった
     機能により感受する作用を言う。精神活動は
     この受から始まる。

   (3) 想(そう)とは、感受した情報等を知覚し、想念・
     思考する作用を言う。

   (4) 行(ぎょう)とは、想念に起因して起こす意思の
     作用を言う。

   (5) 識(しき)とは、認識・識別の働き、また、受・
     想・行を起こす心の主観・主体を言う。

   以上の五陰は、物質である肉体とその場で働く精神活動がそれぞれの機能と働きを分担しながら、なおかつ全体として一体不可分の調和を保っている色心不二(しきしんふに)の姿を示している。
   五陰は、人それぞれ異なった身体を持ち、精神活動もそれぞれに異なることにより、差別が生じることになることより、五陰世間と言う。五陰それぞれについて人それぞれに異なった姿があることより、これが個性が生ずる背景ともなっている。このことを「五陰和合を名づけて衆生と為す」と釈している。

 ② 衆生世間
   十界のそれぞれの境涯に違いがあるのが十界の生々しい姿であり、どの十界の境涯に身を置いているかによって、人それぞれの心の働き方に違いが生ずることを衆生世間と言う。境涯が心の働きに大きな影響を与えている実態がある。
   また、衆生世間とは人間社会と言い換えることもでき、人間等の所属する家庭や社会にそれぞれ異なった様相や特異性があることにより、心にもその影響が反映して違いが生ずることになる。
   尚、心の状態の基調が境涯を定めていくと共に、境涯は心の状態に直接に影響を与えることより、この両者(心の状態と境涯)は不二の関係にあることは、十界の抄で述べた通りである。

 ③ 国土世間
   ここでは人間等を取り巻く生存空間・(非生物をも含む)自然環境全体を国土と呼んでいる。環境が異なれば人間等の心の状態も境涯も影響を受け差別が生ずる。この事実を国土世間と言う。
   また、人間等の主体を正報(しょうほう)と言い、国土(環境)を依報(えほう)と言うが、主体と環境の関係は依正不二の関係にある。即ち、環境が主体に影響を与えると共に、主体が環境を認識し環境に影響を与える。
 この主体と環境の相互の影響度合いと方向は、主体がどの(十界の)境涯にあるかによって大きく変わってくる。
 例えば、地獄界では、環境からの作用によって大きな影響を受けており、主体から環境への影響力はほとんど働かない主体性が喪失している状態とも言えよう。

 以上の五陰世間、衆生世間、国土世間の三世間により、心に差別が形成される背景とその背景自体に差別があることが明らかにされている。

 尚、主体である人間等を有情と呼ぶ場合には、環境である国土を非情と呼ぶ。岩石や草木も非情となる。国土世間は非情の差別、五陰世間と衆生世間は有情の差別を説いていると言える。

 一念とは一瞬の心を言うが、心が指向性のある働き・作用を強めるとき、その心が顕わす姿もまた一念と呼ぶ。人が期待や願望や強い思いを抱くとき、その一念は祈りとなる。
 その祈りが、自身に影響を与えるのは五陰世間の働きであり、社会に影響を与えるのは衆生世間の働きであり、環境に影響を与えるのは国土世間の働きである。祈りが何かを変える場合、それは三世間で明らかにされている心の働きとの関係が背景にあると言える。

 一念の中に、十界・十界互具・十如是・三世間の存在があることを
を四抄に分けて説明を試みたが、次の抄で全てを統合した一念三千としての心の実像と実態について述べることとしたい。

[参考文献など]
 KOzのエッセイ#019 「不二とは」
 KOzのエッセイ#043 「心の実相 (1) 十界」
 KOzのエッセイ#044 「心の実相 (2) 十界互具」
 KOzのエッセイ#045 「心の実相 (3) 十如是」
「平成新編 日蓮大聖人御書」(大石寺版)三世諸仏総勘文教相廃立、
  如来滅後後五百歳始観心本尊抄、他
「六巻抄」(大石寺版)三重秘伝抄 第一
 他。