010_ミンミンゼミ
BEE(飛翔昆虫型マイクロロボット)


 未来のロボットは人間型ロボット(HR)だけではなく目的や用途に応じて多様な型態に進化していくだろう。その中で特に興味深いのが昆虫に模した超小型ロボットではなかろうか。特に飛翔する昆虫型ロボットは、鳥やコウモリとは異なる原理で効率よく空中を飛ぶことができるため、生活のさまざまな用途に使われるだろう。

 私は、飛翔昆虫型のマイクロロボットを総称してBEE(ビー)と名付けたい。BEEは語源はミツバチのbeeである。
 元々昆虫は哺乳類などの脊椎動物と全く異なる進化を遂げてきており、人類が地球を占拠しているように見えても、独特の生存力で地球上のあらゆる場所でしぶとく生き残っている。近代都市にいても蚊に刺されることはあるし、ゴキブリを絶滅させることもできない。ミツバチがいないと蜂蜜も食べられなくなるし果樹の受粉もできなくなってしまう。合成繊維が普及してもカイコから作られる絹の感触にはあこがれる。

 ノミやバッタは自分の背丈の何十倍の高さにまで飛び跳ねることができるし、アリは自分の体重の何倍もの荷重を持ち運ぶことができる。また、5mg程の体重の蚊が自重と同じ位の5mgの血を吸って飛ぶことができる。昆虫の中には赤外線から紫外線にまで幅広い波長の光を見れる仲間もいる。ある種の化学物質やフェロモンを1kmも離れて感知できる昆虫もいる。水中、地中、空中などを変態しながら生存環境を変えて種の保存を図っている虫もいる。乾燥や凍結など極限の環境でも生き残ることができる種もある。驚くべきことには哺乳類の1億分の1に達しない微小な脳によって空中での微妙なコントロールをこなすだけではなく高度な記憶力や学習能力も備えている。このような特異な能力は鳥や哺乳類や魚など他の生物形態ではとてもまねのできないことが多い。
 特に空中を飛ぶ能力は刮目に値する。2枚から4枚の羽を使って空中を飛び回り、場合によっては空中に停止(ホバリング)したり、更には空気の流れに乗って漂ったり、自在に空中を移動する能力である。鳥やコウモリも空を自在に飛べるし、一部の哺乳類や魚類、爬虫類、また太古には恐竜にも、空中をグライダーのように滑空できるものがいる。しかし、昆虫の特異性はその体のサイズと軽さにある。わずか数cmで数gのトビバッタが風に乗って数百kmの移動をこなすことができる。逆に言うと、飛翔できる昆虫は他の飛べる生物と比較して極端に小さく極端に軽い、という特徴がある。昆虫の体はその飛翔能力にたいして極めて軽い構造をしている。ただ、耐久性は犠牲にしている。飛翔できる昆虫の寿命は極めて短い。従って限られた期間だけ飛べればよいわけで、わかりやすい表現を借りれば、体の構造はいわば耐久品ではなく消耗品の設計思想でデザインされているとも言える。耐久性を犠牲にして、そのかわり飛翔能力を高めるために極限にまで軽量化と小型化の進化がなされている。

 BEEは飛翔昆虫のこの特異性、軽量・小型・エコ、を模して作られる飛翔昆虫型のマイクロロボットである。耐久性については、必ずしも自然の飛翔昆虫とは異なるがナノカーボンなどの超耐久材料が採用されることもあるため、増強されると思われるが、それでも基本性能としてはやはり消耗品に近い使われ方が多くなると思われる。

 BEEの空中を飛ぶことができる能力は、実際の飛翔昆虫が用いている空気の粘性と渦を利用した方法を模して獲得されるものであり(レイノルズ方式/粘性の流体原理)、現在実用化されている航空機の飛行原理である上下の空気速度の違いを利用した負圧を利用するものではない(ベルヌーイ方式/非粘性の流体原理)。これは超軽量、超小型と合わせて、柔軟で高速かつ持久力のある飛翔筋力を持つ昆虫の生体能力を模して製作されることになる。

 ちなみにBEEには形態から蜜蜂型、蚊型、蝶型、トンボ型、セミ型、バッタ型などに分類できるかもしれない。
 また用途から、例えば、Sweeper-BEEは掃除屋である。室内、屋外のいたる所に飛んでいっては小さなゴミを拾い集める。強力な破砕口を備えたScrap-BEEはSweeper-BEEの特殊型であり、古いビルの解体も数十万匹(機)の集団で短期間でコンクリートを細解して良質の建設用土砂に変えてしまう。Search-BEEは捜索に使われる。火山噴火や災害時の情報収集や倒壊した建物や事故の際の人命救助などにも使われるだろう。Guard-BEEは事故にあったときにポケットから飛び出し救助を求めていく。変わった用途では、Fire-BEEも面白い。打ち上げ花火に連動して数千数万のFire-BEEが夜空を舞い、美しい光を放ちながら長時間続く新花火模様を描くことになるかもしれない。長時間にわたって高空に留まる用途にはトンボ型Fly-BEEが活躍するだろう。羽は太陽光電池も兼ねることができる。農業、林業、鉱業、製造業、販売業など幅広い分野で専門のBEEが使われるだろう。

 私は真夏の夜に軒先にFire-BEEを放ってホタル鑑賞をしながらビールでも飲みたい。

 蛇足だが、歩行昆虫型のマイクロロボットはANT(アント)と名付けてもよいかと思う。ちなみに、antはアリである。