009_PrinceCharlesApts
幻想的体験


 今から30年程前の体験である。
 当時私は米国シカゴの郊外のArlington Heights(アーリントンハイツ)という数万人規模のヴィレッジに住んでいた。70m x 50m程の芝生の中庭とその真ん中にある30m程の長さのひょうたん型の池を囲むように2階建てのPrince Charles Apartments(プリンスチャールスアパートメント)が落ち着いた雰囲気で建っていた。この中庭に面した1階の一角が私と家族の住居であった。
 私が米国に来てここで初めての夏を迎えた。7月4日は通称Fourth of July(フォース オブ ジュライ)と呼ばれる米国独立記念日で全米各地で盛大にお祝いをする。
 私はこの日の夕刻、辺りが薄暗くなる頃、リビングのガラス戸を開け放ち中庭を眺めていた。しばらくすると右手(東方向)の空に花火が揚がり始めた。遠くのアーリントン競馬場で花火の打ち上げが始まっていた。
 ふと庭の池の方を見ると、ちらちら光る点があちこちに見え始めた。瞬間、思考が止まったかもしれない。花火の火花が庭に落ちてきたと思った。危ないなあ、と思った。と、競馬場は同じヴィレッジにあるとはいえ数キロは離れている。まさか?、と思った。小さな無数の明りはいつまでもちらちら光っていた。
 庭に出て光る点に近づいた。芝生の上には数多くの蛍が飛んでいたり停まっていた。池の上や囲りは点滅する蛍の灯火がブルーの暗闇の中をまるで銀河のように光っていた。
 Lighting Budと呼ばれるホタルが米国にいることをこの時初めて知った。日本のホタルよりやや長めで、形はどちらかというと日本のコメツキムシに近い感じであった。
 早速、妻と幼い子供達を庭に呼んだ。