006_ロウソク立て大阪城
ロウソク立ての東西


 ロウソク立てを燭台ともいうが、実は燭台の方が広い意味を持っており歴史も古い。

 ロウソクを立てる灯明具がロウソク立てだが、燭台は固体であるロウソクだけではなく、液体である灯油を燃やして明かりを得る灯明具のことでもあることより、ロウソクが発明される以前から広く使われていた。ちなみに灯油は獣脂、昆虫油、植物油、魚油、鉱石油など燃える油であれば何でも使われており、皿状の容器に灯芯を立てるか縁に置けば燃やせて明かりとなるので、たき火や松明(たいまつ)の次に人類が発明した灯明となった経緯がある。また、近代に到るまで灯明と言えばほとんどが灯油を燃やす燭台によるものであった。日本でも植物油を燃やす行灯(あんどん)が燭台の代名詞ともなっていたが、行灯に高価なろうそくを立てて使うのは一般的ではなかった。

 ロウソクについて言えば、秦の始皇帝の陵墓から鯨脂で作ったロウソクが見つかっており、紀元前3世紀には中国で使われていたことが確認されている。また、紀元前1世紀にヴェスヴィオ火山の火砕流で埋もれたポンペイ(イタリア南部)でもロウソク立てが発掘されており、おそらく紀元前3世紀にはロウソクが使われていたと推測されている。
 しかし固形のロウソクは常温で固形化する特殊な可燃材料が必要であり、また製作には技術を要したため、一部の特権階級や灯明を重視した宗教寺院などでのみで使われていた高級品であり、一般に使われたのはやはり獣脂や植物油など油を灯して明かりを得る燭台であった。もちろん灯明が使えない庶民の方が多かったかもしれない。

 前置きが長くなったが本題であるロウソク立てに話を戻すが、ロウソク立ては大別して3種類ある。凹凸平の3種類である。ロウソクの種類によってロウソク立ても変わってくることになるが、これはロウソクそのものの歴史に深く関わっている。

 そもそもロウソクはどのような生い立ちをもっているのであろうか。
 日本には仏教伝来とともに中国から蜜蝋(ミツバチの巣の材料)が輸入されロウソクが使われ始めたといわれている。奈良時代には蜜蝋を素材としてロウソクが制作されており、神仏寺院での献灯用や貴族の間で使われていた。16世紀末になると黄櫨(はぜ)、漆鑞(うるしろう)などから採取した木鑞(もくろう)を和紙の中空の巻芯に更に灯心草を巻いた芯に浸けて固めた和ロウソクが発明され、江戸時代になると地方藩の特産専売品として大量生産が始まった。木鑞の浸け方には、手で絡めながら付けていく手巻きと木型に流し込む方法とがあった。いずれの方法でも最後にロウソクの尻の部分を切って長さをそろえる作業があり、中空の芯が残り底の中心に穴が空いた形になる。
 このため和ロウソクのロウソク立ては針が立った形状になっており、ここにロウソクを立てる形になる。いわゆる凸型のロウソク立てが日本式である。

 これに対して西洋では蜜蝋を溶かして型に入れて流し込む方法や芯に手で板状にした蜜蝋を巻いたりしてロウソクが作られた。中世ヨーロッバのキリスト教の寺院でミツバチが多く飼育されていたのはロウソクを作る材料確保が主目的となっていた。蜜蝋は高価であったため、一般的には手に入れやすい牛脂や羊脂、鶏脂など様々な材料が使われていた。共通していたのは、ロウソクの底に穴が空いていないことで、このためロウソク立ては凹型(カップ型、凹みの穴型)であった。
 18世紀になるとロウソクは大量に材料確保ができるようになり匂いや煙の少ない鯨脂が使われるようになり、更に19世紀に入るとピストン式の押し出し機による大量生産が進みロウソクの使用は広く一般に普及した。
 また石油から作られるパラフィンがロウソクに使われるようになったが、ステアリン酸をパラフィンに混ぜることにより50数度Cで溶けて出してしまうパラフィンの弱点を解決したことにより、大量生産されるロウソクはすべてパラフィン製に切り替わっていった。
 以上のように材料は様々に変化したが、西洋ではやはり穴のないロウソクの形状が続けられ、結果として今日に至るまで西洋式のロウソク立ては全て凹型となってしまっている。念のため申し添えておくと、中世のキリスト教会では先の尖った凸型のロマネスク様式のロウソク立てが主流であったが、その後14世紀になるとこの方式は廃れてしまい、ルネサンス以降再び凹型に戻ってしまった。理由は不明である。

 植物繊維の芯に薄くのばした蜜蝋を手で何層にも巻いたロウソクはタンブラー状の円柱となり、ロウソク立てを使わずともそもままテーブルの上に置くことができる。これが平型のロウソクであり、材料がパラフィンに換わった現在でもこの形状のロウソクは使われている。

 歴史の変遷はあるが結果として、日本ではパラフィン製に換わっても依然穴空きのロウソクでありロウソク立ては針状の凸型が使われている。他方、西洋式は穴無しのロウソクでありカップ状の凹型のロウソク立てとなっている。この違いによるものであろうか、日本では西洋式のロウソクを「ろうそく」と呼ばずに「キャンドル」と呼ぶのが一般的であり、キャンドルスタンドもロウソク立てとは意識的に区別しているようである。

 最後にひとつ言っておかねばならない。
 凸式(和式)のロウソク立ては針がテーパ状(角度の付いた棒)になっているために、径の異なるロウソクでも立てることができる。ところが凹式(西洋式)のロウソク立ては径の合ったロウソクしか立てることができない。平たくいえば、和式は万能型、西洋式は特化型、と言える。合理性の判断基準が和洋で大きくことなる一例である。
 また、パラフィンは固まると体積が減る性質があり、溶けたパラフィンをロウソクの型に入れて冷やすと
6%程収縮し自然にロウソクの底部(型は底を上にして流し込む)の中心にテーパ形の穴が空く。従って日本のロウソクはわざわざ穴を開けるのではなく、自然に穴の空いたロウソクとなる。
 因みに、蜜蝋は融けると体積が小さくなり温度が下がって固まると体積が増えるため、できたロウソクは穴が空かない。この違いがロウソク立ての凹凸の遠因かもしれない。
 いずれにしても、私は日本のロウソク(旧来の和式だけではなく現在のパラフィン製も)の合理性に、
深く感じ入っている次第である。

[参照文献]
「History of candle making」Wikipedia
「ブリタニカ国際大百科事典」他