#058 ご飯とみそ汁

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ご飯とみそ汁


 人間の体は約60%が水分でできている。残りの人体構成成分で多いのがタンパク質で約15%、次に脂肪の約13%となっている。

 生命体である人間の生命を構成し維持している主役がタンパク質であり、人間の体は数万種類のタンパク質が極めて複雑に役割分担しながらその生命活動が支えられている。
 かつて1980年代に米国国立保健研究所(NIH)がヒトゲノム(遺伝子総体である全染色体を構成するDNAの全塩基配列)の解読プロジェクトをスタートさせた。その際にヒトの全タンパク質の立体構造解析も検討されたがこのプロジェクトはお流れとなり、当時難事中の難事とも予想されたヒトゲノムの解読プロジェクトが選ばれた経緯がある。これはヒトゲノム以上にヒトのタンパク質を調べる事の方が困難であると判断されたためであるといわれている。

 それ程複雑で多様なヒトタンパク質も、たった20種類のアミノ酸から構成されている。この20種類のアミノ酸が数千から数千万個複雑に組み合わさって様々なタンパク質が作られている。
 ちなみにこのアミノ酸の名前を列記すると、アラニン(Ala)/アルギニン(Arg)/アスパラギン(Asn)/アスパラギン酸(Asp)/システイン(Cys)/グルタミン(Gln)/グルタミン酸(Glu)/グリシン(Gly)/ヒスチジン(His)/イソロイシン(Ile)/ロイシン(Leu)/リシン(Lys)/メチオニン(Met)/フェニルアラニン(Phe)/プロリン
(Pro)/セリン(Ser)/トレオニン(Thr)/トリプトファン(Trp)/チロシン(Tyr)/バリン(Val)、である。
 自然界には約120種類のアミノ酸が存在するといわれるが、この内上記20種類が生体タンパク質の構成材料となっている。

 人体を構成するタンパク質を生産するために必要な20種類のアミノ酸であるが、人体内で合成できるアミノ酸と合成できずに体外から取り込まなければならないアミノ酸とがある。体内で合成できないアミノ酸を必須アミノ酸と呼ぶが、ヒトでは(前述のアミノ酸の略号でいうと)His/Ile/Leu/Lys/Met/Phe/Thr/Trp/Val の9種類が必須アミノ酸である。
 体内のタンパク質は9種類の必須アミノ酸を含む20種類のアミノ酸を使って合成されることから、必須アミノ酸9種類も全種類をバランス良く摂取しないとタンパク質の合成に支障をきたすことになる。
 言い換えると、必須アミノ酸の内、一番不足したものがタンパク質全体の合成量を決めてしまうということになる。不足した必須アミノ酸がひとつでもあると、他の必須アミノ酸がいくらあってもタンパク質はそれ以上は合成されない、ということとなる。必須アミノ酸は「バランス良く」摂取することが大事である。

 日本人の主食である米は、必須アミノ酸の視点からいうと非常に優れた食物と言える。9種類の必須アミノ酸が全て米には含まれている。また、ほぼバランス良く含まれていると言える。「ほぼ」というのは、リシンだけが少ない。
 小麦粉の場合は、リシンがかなり少なくトレオニンも少ない。トウモロコシは、リシンとトリプトファンが少ない。
 他方、大豆は必須アミノ酸が全て満遍なく十分に含まれている優良食物である。

 主食だけで全ての必須アミノ酸を摂取する必要はないわけで、副食と組み合わせて栄養のバランスと取るのは必須アミノ酸に関しても有意義なことといえる。
 白いご飯に豆腐のみそ汁、そして納豆の付け足しという典型的な日本人の朝食は、必須アミノ酸をバランス良く食する上ですばらしい食事と言えよう。
 もちろん、パン(小麦粉)とミルク、もしくは目玉焼き(卵白)の組み合わせも同様の効果をもたらす。
 また、アミノ酸だけではなく、大豆にはタンパク質が豊富に含まれており、米、麦、トウモロコシなどの穀類もタンパク源となる。これらの豆類・穀類に含まれるタンパク質は、胃酸・胃ペプシン、更に膵液中・腸液中の各種酵素の働きによってアミノ酸にまで分解され消化吸収される。

 本抄では必須アミノ酸を中心に述べたが、これはタンパク質の体内合成のために必要ということであり、同様にこれ以外にもタンパク質、脂肪、炭水化物、ミネラル、ビタミン、金属などさまざまな栄養素を含む様々な食物をバランス良く食べることが、人間の体のために必要なことであるのは言うまでもない。この意味で、逆に、偏食は人体に悪い影響を及ぼす原因ともなる。

 日本人は2000年以上にわたって米を主要な食物として摂取してきた歴史をもち、大豆も米と共に大事な食物として日本人の生命を支えてきている。縄文時代後期以降、米と大豆は日本人にとっては欠かせない主食・副食の名コンビの伝統を築いてきたと言えよう。

 この事実も踏まえて、「伝統食はバランス食」と言い切ってよいのではなかろうか。

[参考文献など]
 http://ja.wikipedia.org/wiki/タンパク質
 http://ja.wikipedia.org/wiki/アミノ酸
 http://ja.wikipedia.org/wiki/必須アミノ酸
 http://en.wikipedia.org/w/Protein_Digestibility_Corrected_Amino_Acid_Score
 http://en.wikipedia.org/wiki/PDCAAS
 五訂増補日本食品標準成分表(本表)
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm
 他。