#031 日本列島の形成

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日本列島の形成


 最近20年間の地学研究の進展により、日本は、約7億年前に超大陸ロディニアが分裂し、南中国地塊が分離独立したことに関連して生まれたことが明らかにされた。
 ロディニアの分裂とは古太平洋(パンサラサ海)の誕生を意味するが、この時南中国と北米との間に生まれた原日本(proto-Japan)は、最初の2億年間は南中国地塊の大陸東縁付近に位置し、幅約100~200km、南北約1000kmにわたって細長く伸びた帯状地域であった。その後(カンブリア紀中頃)海洋プレートの沈み込みが始まることにより太平洋に接した造山帯として成長を始めた。これが約5億年続き、南中国地塊は北中国地塊やインドシナ地塊と衝突して合体しアジア大陸の東部が形成された。

 更に、約2000万年前に始まったアジア大陸の東縁部であった原日本列島の局所的な地殻上昇により、西側に弧状の窪地と裂け目ができ、やがてその窪地が拡大して海盆としての日本海が誕生した。この海盆は更に拡大し、日本列島は島弧として完全にアジア大陸から独立した。

 このようにアジア大陸の東端部であった日本列島が大陸から分離独立したことにより、アジア大陸を経由して西から長い時間をかけて移動してきた多くの動植物の到着地であった日本列島で、これらの動植物は独自の進化を遂げることになった。
 日本と同じような面積を持つ北半球の島国であるイギリスと南半球のニュージーランドと生物の多様性を比較してみると、日本の生物群の多様性に驚く。
 たとえば、植物の種類を比較してみると、日本には全部で5300種の植物が自生しており、その内日本固有の植物は1800種ある。イギリスは総種数1623で固有種数はわずか160であり、ニュージーランドは総種数2089・固有種数1654となっている。
 これが哺乳類など脊椎動物で比較してみると更にその特徴が顕著となる。哺乳類では、
日本は48/187(固有種数/総種数)、イギリスは0/42、ニュージーランドは3/3となっている。参考までに魚類では、日本419/3850、イギリス0/315、ニュージーランド110/1010、鳥類では、日本10/542、イギリス1/542、ニュージーランド56/295となっている。
 日本にはいかに多くの生物が凝集しているか、またその中で数多くの動植物が独自の進化を遂げて日本固有の種に変化したかがみてとれる。
 日本列島は、太平洋の中に火山島ができそれが集まって誕生したのではなく、7億年の時間をかけてアジア大陸の東部が分離して形成され現在の姿となったことは、そこに生きる動植物の多様性によっても十分に説明できよう。

 多く種を育んだ自然に恵まれた日本列島に、ヒトもまた到達した。4万年前から2万年前の時間をかけて、東西を日本海と太平洋に挟まれた日本列島に、シベリアの寒冷地を生き抜いてきた狩猟民族が北から南下してきた、またアジア東南部の温暖地域からは海洋民族や農耕民族を含む人達が北上してきた。
 南北からの異なった文化を持った人々が日本列島各地に居住空間を築き、その拡大と移動の中で人種と文化の融合と差別化が進み、また日本の多様な自然に順応することによって、十分な時間をかけて日本人の原型が形作られていくことになった。
 このようにヒトもまた地理的に独立した日本列島で独自の進化を遂げ、自然とのユニークな関係を大事にする日本文化の種がまかれた。

 最新の地学研究は、日本列島の未来の姿についても予測している。
 現在から約5000万年後にはオーストラリア大陸が日本列島を含むユーラシア大陸の東縁と衝突し、約3億年後には北米大陸がユーラシア大陸に衝突し太平洋を閉塞させ、その結果ユーラシア大陸と北米大陸が合体した超大陸が形成される。その時点で日本列島は大陸内の独立造山帯として歴史を終える、とされる。
 これにより、現在の日本列島は約7億年前から約3億年後までの約10億年にわたる歴史の途上にいることになる。

 さて、この地球地学史の中では壮年期ともいえる日本列島の姿は、今、輝いているのであろうか。

[参照文献など]
 国立科学博物館(日本館常設展[日本列島の素顔])
「地学雑誌」120(1) 2011 p65-99