#090 SF「グランティスの遺産(下)」

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SF「グランティスの遺産(下)」


 2019年2月28日、SF小説「グランティスの遺産(下)」の執筆が完了した。400字詰原稿用紙換算で426枚の長編である。
 上巻の修正も同時に完了した。上巻は同じく437枚換算となった。

 下巻の最終章で遂に太陽系外高度知性体エウィーブのテトラ艦隊が地球に到着する。地球はその応対の準備が間に合ったのかどうか、全てはその一点に地球の運命がかかっている。

 さて、上巻ではタイトルを「4D4 グランティスの遺産」としたが、下巻完成時にこのタイトルを少し変更し「グランティスの遺産」とした。
 特に意図的では無いと言い切って構わないと思うが、結果的には上巻と下巻はほぼ同じ文字ボリュームになったこと、自分でも驚いている。

 上巻の執筆完了時に、「KOzのエッセイ」執筆の結果が利用されていることを述べたが、下巻の執筆に当たって上巻では使わなかったエッセイ項目を新たに幾つか使ったので、それを参考までに下記に示しておく。

  #007 表音文字と表意文字
  #017 ガテマラ富士
  #020 無限について
  #034 男女同権の憲法改正
  #059 日本人の名前を英語では?
  #078 味覚の和
  #082 成住壊空とは
 
 最後に「グランティスの遺産(上・下)」の梗概(あらすじ)を書いておきたい。

【梗概】 グランティスの遺産(上)
 東飛鳥《あずまあすか》は南アルプル塩見岳にいた。頂上手前で一休みしていると、登山道の崖下から空中に飛び出してくる不思議な物体を目撃した。世界が大きく変わる始まりであった。塩見岳の地中深くには一万二千年前に滅亡した先人類グランティスが現人類のために遺した遺産シェルター・エルカがあった。ミコト適性試験に合格しエルカの相続者に選ばれた東は人工生命体アムウィの協力を得て、技術遺産を駆使した大掛りな活動を開始した。東はまずDフォース代表として林総理に会い、日本の国益に合致する形で技術・経済・安全保障分野での全面支援を約束した。四次元振動を応用したDシールドやDフロートなどの新技術は現人類の科学技術水準とは比較にならない圧倒的な力を見せつけることになった。東はまず対外的な経済活動の拠点としてハルナ企業を設立し、ここを窓口として日本政府に対してDフロートの技術供与を開始した。これにより自衛隊の保有装備は世界最強のものに変貌した。続いて民間企業へのDフロートの提供が開始され、日本は世界最強の工業力と経済力を得ることになった。
 日本の国力強化と並行して、核軍事大国に対しての対応を開始した。まずDシールドによる尖閣諸島の封鎖を実施した。Dフォースの封鎖通告を無視した中国は海空軍兵力を封鎖域に派遣したが逆に自滅させられた。これを契機に世界の軍事大国はDフォースの存在に注目し始めた。Dフォースは間断無く次の行動に出た。Dカーの想像を絶する能力を使い、世界中の海洋に潜んでいた原子力潜水艦を全て捕獲して西サハラに設けた封鎖域に強制収容した。核大国の一二七隻の原潜は三日間でDフォースに捕獲され無効化された。
 北朝鮮は突如十九発の核弾頭ミサイルを米国主要都市と日本に向けて発射した。これらは発射後短時間でエルカからDジャンプしたDカーによって捕捉され、米国が報復措置を実施する間もなく処理してしまった。Dフォースは即日四十三台のDカーを北朝鮮に派遣し、金世温主席を捕縛すると共に、全ての核施設・軍事施設の無効化を実行した。
 米露中などの核大国がその強大な核軍事力を背景に主導権を握ってきた国連においてもDフォースをバックにした日本が指導力を発揮し始めていた。国連総会で特別講演に立った林首相は、安全保障理事会における常任理事国五か国が持つ『拒否権』の廃止を提案した。林提案にはDフォースのコミットメントが添えられていた。拒否権廃止の提案は直ちに総会の議案として決議にかけられ、一八〇か国を超える賛成により可決され、続いて最終決定権を持つ安保理にかけられた。拒否権を行使した場合にはDフォースが座視しないとのコミットメントは常任理事国五か国に大きな影響を与え議案は可決された。創立以来の懸案であった国連改革が初めて実現した。
 エルカに託された創設者グラン博士の遺言には、現人類への技術遺産相続と並んで、その技術を使う人間の心と境界《きょうがい》に関する対処があった。宗教選別基準とよばれる先人類の英知に基づき、この第五基準を超える高等宗教の普及が先進技術を相続させる条件となっていた。技術は使う人間の心と境界によっては平和技術がたちまち人類を滅ぼす大量破壊兵器に変わってしまうことを、先人類自らの滅亡が証明していた。四次元振動は、核兵器をはるかに凌駕する時空兵器をも作りうる原理であり、正に両刃の剣であった。
 国連では日本から提出された『人類存続のための地球政府設立案』が重要議題として協議されていた。国連を発展的に解消して地球政府に昇華するための条件提示であった。設立議案は安保理と国連総会での激しい論争の結果可決された。二〇三二年一月一日が地球政府の創始日として確定した。
 地球政府発足の直前、ハルナ本社の会議場には、全世界から報道関係者など千名が集まりDフォースの初公開記者会見が開かれた。一年余り後に地球に衝突する直径四五〇キロメートルの天体アンブラに対するDフォースの対応が全世界の注目を浴びていた。人類の所有する全ての核兵器を束ねてもアンブラの衝突を回避することは不可能であり、唯一の希望がDフォースであった。Dフォースは全世界に向けて二つの選択を提示した。期限までに世界中で『信教と言論の自由』を保障する体制ができれば第一選択の『アンブラの衝突回避』を実施する、その条件達成が不十分な場合には第二選択『高度宗教が存在する日本のみをDシールドで保護する、という選択であった。

【梗概】 グランティスの遺産(下)
 誕生した地球政府の最初の仕事は、否応なしに天体アンブラに関わる対応となった。第一選択を何としても達成する以外に選択の余地は無かった。地球政府の指導の下、全自治国では自治国憲法に『信教と言論の自由』を明記し、更にその実態が伴った体制を確立すべく極限の国内対応が始まった。既にこの条件に合致しているはずの米国でも欧州でも実態は伴っていなかった。イスラム教国家では国教を廃止し宗教の自由を認めることは極めて困難であった。これらの高い障壁を乗り越え九割を超える国々がこの条件を達成した。
 一方、Dフォースはアンブラの軌道修正に動いていた。DシールドとDジャンプを使えば地球衝突軌道を変えられる目処が付いた。元々太陽系準惑星エリスの衛星であったディスノミアが衛星軌道から外され、更に正確に地球衝突軌道に乗せるのは想像を絶する科学技術力がなければ不可能なことであった。太陽系外高等知性体テトラ属が地球人類の最終能力評価のための判定テストであると思われた。Dフォースの懸命な作業の結果、地球衝突予定日の直前アンブラを地球の孫衛星として月衛星軌道に乗せることに成功した。
 地球政府は誕生したが依然国境は残っており、国境を解消するための様々な障害が課題として残っていた。
 Dフローターの普及は社会の変化をもたらしていた。ハルナは個人用Dフローターの生産も開始した。更に人型ドローン・アスカーの大量生産も始まった。人間と同等以上の能力を持つアスカーは社会のあらゆる分野での需要に応えたが、その一方で失業者が増大していた。
 国内の社会格差、貧富格差の拡大、国家間の経済格差と貧富の落差は国境解消の障害でもあった。Dフォースは、アスカーの販売に関わる課税制度を全世界共通で整備することにより全国民の基本収入制の導入が可能であることを地球政府に提示した。アスカーの市場実態価値に比し販売価格が極端に安いために可能な提案であった。この世界共通の新税制が実現し、格差是正が動き始めた。
 グランティスと共倒れしたカムスカが滅亡直前に構築した退避シェルター・マヤカが発見された。地下遺跡から軍用宇宙シャトルEシップが九隻発見された。Eシップには新エネルギー変換物質が使われていた。別のカムスカ退避シェルター・ライカも発見された。ここからはEシップ二十一隻と大型宇宙艦Gシップ二隻が見つかった。カムスカの遺構から確保されたGシップとEシップがDフォースに加わり、テトラ属来訪に対してDフォースの対応力は大幅に強化された。
 一方、地球防衛軍強化のため最速戦闘機F101の供給が開始された。更に中米露の隠匿地下ICMB基地を地球防衛砦とすべくF102の配備も決定した。
 テトラ属の地球来訪に備えて対応策が準備された。テトラ艦隊の規模によって対応を変えることになった。もしテトラ属が超大型宇宙艦七基以上の編成で来た場合には地球側の防衛力を超えてしまい、対等な交渉自体が意味をなさなくなってしまう。地球政府が臆すること無く交渉できる規模は、超大型艦六基までとの想定がなされ、それ以上の規模のテトラ艦隊の場合は従順に従う形の交渉とすることが決定された。
 二〇四二年テトラ超大型艦六基からなる艦隊が太陽系に現れた。直ちにGシップがNYの地球政府ビル上空に派遣され、交渉首脳団がGシップの中央司令室に集められた。
 Gシップからの誘導電波に導かれたテトラ艦隊はNY上空に到達したが、テトラ艦からのコンタクトは無い状態が続いた。テトラ艦隊の規模が想定した限界内に収まっていたため地球政府内にはひとまず安堵の空気が流れていたが、その時警報が鳴り、テトラ艦隊第二陣が第一陣と同じ規模の六基編隊で到着したことが知らされた。