#039 外来生物とは?

039_ムサシノキスゲyy
外来生物とは?


 外来生物とは何か、また何が問題なのか、そしてどうしたらよいのか?

 日本では2000年以降、この問いに政府ベースでの論議が開始され、その成果として2005年に外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)が施行されている。この法律を取りまとめるにあたり上記の問いに対して、
「外来生物」とは、海外から日本に人為的に持ち込まれ(導入され)(その本来の生息地・生育地ではない日本に)生息・生育している生物、と定義され、
「何が問題なのか」とは、日本を本来の生息地・生育地とする生物(「在来生物」)と性質が異なるために、本来の生態系などに係る被害を及ぼしている(また及ぼす可能性がある)、とし、
「どうしたらよいのか」については、特定外来生物を指定し、その飼養・栽培・保管・運搬・輸入に関わる取扱いを規制し、防除などを行う、としている。

 この外来生物法も法律の常として現実的な妥協がなされており、対象となる生物種も限定され(維管束植物以外の植物、菌類、バクテリア、ウイルス、家畜・家禽、農産植物などは対象外)、また既に日本に持ち込まれている外来生物(2000種を超えるといわれる)に対する取扱いについても方向性は示されてはいるが実効性は見えてこない。
 日本で制定された外来生物法とは別に、国際自然保護連合(IUCN)の定義、米国・欧州など各国の諸法制でも、それぞれ外来種の定義、問題点、対応策について規定されているが、精度は異なるが日本法と同様の欠陥を内包している。これはそのまま外来生物に関わる問題の深さと解決の困難さを反影している。

 外来生物が問題とされる場合、在来種にはない繁殖力を得て急激に生息・生育地を拡大する場合、必然的に在来種の滅亡の可能性が指摘されることとなり、生態系の破壊として問題化する。このような場合、このような外来生物を侵略的外来種と呼ぶことが多い。食料源として導入されたアメリカザリガニ、ソウギョ、ウシガエルなどが野外に放たれて繁殖地を拡大したが、これも侵略的外来種といえる。在来種を絶滅に追い込んでいるブルーギルやオオクチバスなどの淡水魚類、ヌートリア・アライグマなどの哺乳類も同様である。
 尚、植物に限定しても日本生態学会では侵略的外来種ワースト100種をリストアップしているが、その内、外来生物法で対象とする維管束植物は26種のみであり、更に特定外来生物に指定されているのは4種しかない。いかに外来生物法の対象が限定されているかがわかる。
 侵略的外来種は、在来の生態系を破壊する典型例であるが、程度の差はあれ全ての外来生物は既存の生態系(在来生物)に影響を与えている。

 外来生物は自然の生態系への影響という視点だけではなく、農林水産業など人間社会への経済的影響という視点も重視されている。
 ニジマス、カワマス、シナノユキマス、ブラウントラウトなどサケ・マス類は、有用な水産資源として積極的に日本の各地の河川や湖に導入されている。自然保護というより経済的利益、人間の生活を優先した動きといえる。
 トマトの味を向上させるためには受粉させ種を生じさせる必要であるが、この受粉を効率よく進めるために欧州で人工飼育されたセイヨウオオマルハナバチが大量に輸入され園芸農家で使われている。しかしこの外来種が野外に逃げ出し、このために在来種であるマルハナバチとの交雑が起きている。またセイヨウオオマルハナバチは舌が短いためにエゾエンゴサクなどの花の密まで舌が届かないとき、花の側面に穴を開けて密を吸うが、このため花が正常に受粉できず種を作ることが難しくなり繁殖が阻害されてしまうことが起こる。トマトの育成のために在来の自然系が影響を受ける結果となっている。
 河川の砂防・護岸・造林などのために生育が早いハリエンジュ(ニセアカシア)が戦後、救国樹種とよばれて盛んに植樹されたが、外来生物法では要注意外来生物に選定されている。これは繁殖力が強いために在来の河川や海岸での在来植物(ケショウヤナギやカワラノギクなど)を駆逐しているためと説明されており、影響の大きい場所では積極的な防除が推奨されている。また、長野県ではリンゴ栽培農家がニセアカシアが果樹炭疽病の伝染源であるとして駆除(伐採のみでは駆除できないため枯殺が必要)を実施したが、養蜂家よりはニセアカシアは密源として重要であると利害が対立した。他方、果樹園農家は受粉のために養蜂家の蜜蜂の助力を必要としており、果樹を守るためにニセアカシアを駆除することが廻り廻って果樹生産を阻害する遠因となってしまうというジレンマが発生している。
 生物連鎖、生物共生、など生物界の生存淘汰の実態ともいえる生態系は複雑であり、外来生物に対する対応は多面的な視点が求められる。言い換えるならば、外来生物に関わる問題は二律背反として見るのではなく、在来生物と人間社会との総合調和を探っていくしかない、とも言えるのではないだろうか。

 外来生物の定義は外来生物法では、在来の生息地・生育地を国単位(日本国内)としているが、学術的には地域とするのが正しいと思われる。
 例えば、タヌキは元々屋久島にはいなかったし、ヤギは八丈島にはいなかった。ホンドテンやニホンイタチは北海道では本州からの外来種である。
 また奥日光に群生するニッコウキスゲ、コマクサ、クリンソウは、今や奥日光の観光名物となっているが、これら3種の植物は国内由来の外来種であることが近年判明している。

 一般には外来生物の範疇には入れていないが、復活外来生物というのも今後はありえる。例えば、シベリアで凍結した状態で発掘されたマンモスのDNAを再生してマンモスを復活させることも技術的には可能となってきている。
 また、古代の樹液に閉じ込められた昆虫が自然のタイムマシンとも言うべき琥珀となって、現在まで多少でもDNAが保存されておれば、これも最新の分子生物学の技術を使って復活させることも可能かもしれない。
 過去においては、2000年前の地層に眠っていたハスの種子から大賀ハスを復活した実例もある。今日大賀ハスは日本各地で栽培されているが、これも時を超えた外来種と言えよう。

 既存自然や人間社会に悪影響を与える外来生物は駆除の対象となりうるが、現実的には一度定着した侵略的外来種を根絶することは非常に難しい。
 例外的な成功例としては、日本では南西諸島に拡大したウリミバエに対して20年以上の歳月をかけて不妊虫放飼法と駆除を併用することで根絶した。また、1999年から開始した小笠原の聟島列島に生息するノヤギの排除事業は、柵への追い込みと射殺により2002年までに完全な排除に成功し、ほかの近隣の島々でも進められている。いずれも孤絶した面積の狭い島での成功であり、広域(陸地・水域)での成功例は見当たらない。
 世界的にも、オーストラリアの閉鎖的な港におけるイガイダマシ(外来海洋生物)駆除の一例のみが成功例とされている。
 逆に、侵略的外来種の駆除のために天敵である外来種を導入し、その駆除効果が達成しないままにその導入天敵が新たな侵略的外来種となってしまった例が多々見受けられる。

 冒頭の疑問に戻ることになるが、
 外来生物の定義自体が、意図的・非意図的にかかわらず人為的に導入された生物種としていることからも、外来生物は必ず人間の関与によって生じている。すなわち「外来生物とは」、人間力(*)の所作により生じた現象と言える。
 また、外来生物は、被害発生源であるか社会に有益であるかはその程度によって善悪功罪が判断されているが、それも人間主体の価値判断に基づいているわけで、「何が問題か」との判断行為はすなわち、人間力が行使される前段階のプロセスとみることができる。
 更に、「外来種をどうするか」ということ自体、自然に任せるということを放棄して、人間力で対処するという結果を示している。
 すなわち外来生物は、その発生原因から評価そして結果に到るまで、ことごとく人間がその因果関係に関与しており、人間力の発現として捉えることが本質を理解する上で重要と思われる。
 更にわかりやすく言えば、人間の自然環境破壊の一面として外来生物をとらえることができるということになる。人間力が地球本来の自然に不可避的に大きな影響を与えているという事実が外来生物に関わる問題の奥深さを示していると思われる。

 最後にひとつ述べておきたいことがある。
 外来生物は人間以外の生物を対象としているが、実は人間こそ外来生物の代表的存在であることを忘れてはならない。アフリカで誕生したホモ・サピエンスは、10万年以上前にアフリカを離脱しユーラシア大陸における外来生物となった。また4~2万年前に日本列島に南北から移入し縄文人が誕生したが、縄文人の誕生経緯そのものが最強の外来生物、いわゆる侵略的外来種の典型であったともいえる。更に弥生人の源流が、これこそ縄文人にとっては外来人であるが、今から3000年前に日本列島に移入し縄文人と混血して弥生人が誕生し日本人の祖先となった。これらの人間そして日本人の外来生物としての歴史も頭の片隅に置いて、外来生物の去就を考えてもよいのではと思う。
 また、日本列島がそもそも太古の昔から渡来生物のいわば集積場所でもあったこと、時間の長短の違いはあれど、外来生物がいずれ在来生物に立場を変えることもありうることも、否定できないことであろう。
 人間の場合であれば、たとえ姿形の異なる外国人が多数日本に移住してきても、それを一方的に排除することはできず、受け入れて新しい日本人の血を作っていくしか途はなかろう。そもそも日本人はそうして誕生したのだから。

 
[参照文献など]
 KOzのエッセイ#031「日本列島の形成」、#036「日本人の源流」、
 (*) #038「人間力」参照
「侵入生物データベース」国立環境研究所
   http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/projects/index.html
「何のために外来植物を駆除するのか」長野県環境保全研究所
   http://www.hrr.mlit.go.jp/chikuma/news/juku/data/025h/img/kujyo.pdf
「外来種」http://ja.wikipedia.org/wiki/外来種
「どの生物を守るべきか」Michelle Nijhuis著(日経サイエンス 2013.01号)
「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」
  平成17年4月27日最終改正
 他。