#051 「代表的日本人」

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「代表的日本人」


 1961年、アメリカ合衆国の第35代大統領に就任したジョン・F・ケネディは、日本人記者からの「あなたが最も尊敬する日本人政治家はだれですか?」との質問に対し、「上杉鷹山(うえすぎようざん)です。」と返答した。
 これから半世紀が経ち、2013年11月に故ケネディ大統領の長女であるキャロライン・ケネディが駐日アメリカ合衆国大使として就任した。就任2週間後の11月27日に日米協会・在日米国商工会議所が主催する歓迎昼食会の席上、ケネディ大使は挨拶に立ち、上杉鷹山の言葉「なせば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」(正文は英文)を引用して、父ケネディ大統領が上杉鷹山を尊敬していたことを披露し話を締めくくった。

 18世紀の江戸時代米沢藩主であった上杉鷹山の名前は、山形県民であれば知っている人は少なくないと思うが、それ以外のほとんどの日本人はそれなりの教養があり歴史に興味をもっている人でないと上杉鷹山の名前も業績も知らないであろう。
 にも拘らず、なぜ?米国人であるケネディ親子が上杉鷹山を知っていたのであろうか。

 それは内村鑑三(うちむらかんぞう)の功績によるところ大である。

 内村鑑三は、1861年に高崎藩士の長男として生を受け、12歳で上京して東京外国語学校などで英語教育を受け、札幌農学校第二期生としてキリスト教になかば強制的に改宗させられ、その後米国に留学し種々変遷を経てキリスト教の伝道者となって帰国した。
 内村鑑三は1894年に英文にて "Japan and Japanese"(「日本と日本人」)を著述し、その改訂版である "Representative Men of Japan"(著者によるタイトル和訳が「代表的日本人」)が1908年に警醒社書店(Tokyo Keiseisha)から英文出版された。
 この「代表的日本人」は日本人による初の本格的英語出版物となり、非常な反響を呼びおこし、その後米国での日本・日本人を学ぶ代表的なテキストとしての存在となった。内村鑑三のネイティブ(英語育ち)な英語力とキリスト教的信条が凝縮された英文出版物であり、その内容も極めて洗練されたものであったため、学識のある米国人にとって抵抗なく読める絶好の日本・日本人紹介文献となった。

 この「代表的日本人」には、代表的日本人として5人の生涯が紹介されており、その二番目に上杉鷹山が、"Uesugi Yozan - A Feudal Lord" (上杉鷹山 - 藩主) として紹介されている。
 「代表的日本人」に紹介された5人が米国人として知りうる日本史上の代表的人物であり、ケネディ大統領もこの書物によって民主的な封建領主として藩改革を成功させた上杉鷹山を知り得たことになる。
 またケネディ大統領以外にも上杉鷹山の名前を知っている日本通米国人学識層は多いが、その知識の原典は内村鑑三著による「代表的日本人」によるとみて構わないだろう。
 100年前に日本で出版された書物ではあるが、今でも米国ではペーパーバックで出版されておりAmazonなどで簡単に入手できる。

 日本と日本文化を海外に紹介するにあたっては、海外に通用する熟達した語学力とその国の文化基盤の深い理解が伴った時、驚くべき影響力が生じる。これを「代表的日本人」が教えてくれたと思う。

 尚、参考までに "Representative Men of Japan" に紹介された5人を以下紹介しておく。
 ① Saigo Takamori - A Founder of New Japan (西郷隆盛)
 ② Uesugi Yozan - A Feudal Lord (上杉鷹山)
 ③ Ninomiya Sontok - A Peasant Saint (二宮尊徳)
 ④ Nakae Toju - A Village Teacher (中江藤樹)
 ⑤ Saint Nichiren - A Buddhist Priest (日蓮聖人)

[参照文献など]
「Representative Men of Japan」Kanzo Uchimura著(Kindle版)
「ケネディ駐日米国大使の歓迎昼食会(日米協会・在日米国商工会議所主催)における
 講演」米国大使館 東京
  http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20131127-01.html
「Representative Men of Japan」Kanzo Uchimura著(American Missionaries版)
  http://www.teresa.co.jp/uchimura/uchimura.htm
「内村鑑三」http://ja.wikipedia.org/wiki/内村鑑三
他。